賃貸物件で何かとトラブルになるのは、退去時の原状回復についてです。アパートやマンションを退去する際に、掃除が必要なのか、どこまでが原状回復すべきラインなのか、とても判断しにくいことでしょう。
「日常生活でできたキズは、借り主の負担になる?」「退去する際に掃除は絶対必要なのだろうか」その疑問、非常に共感できます。賃貸物件に住んでいる方は、知っているようで原状回復についての知識を持ち合わせていない場合があるのです。ゆえに、退去時に戻るべき敷金が返還されず、大変損をしていることがあります。
今回は、原状回復や退去時の掃除についてご紹介です。

  1. 賃貸物件を退去するときの掃除について
  2. 原状回復とは?
  3. 退去トラブルについて
  4. プロに頼んだ方がいい掃除について
  5. 賃貸物件の掃除や原状回復でよくある質問
  6. まとめ

この記事を読むことで、原状回復への知識が深まり、退去時の参考になるでしょう。借り主が当然のように負担していたことが、貸し主負担だということも理解できるようになります。これから引越しを控えている方は、ぜひご一読ください。

1.賃貸物件を退去するときの掃除について

引越しに伴う退去の掃除がどこまで必要なのか、とても気になりますよね。そもそも掃除をする必要があるのかも疑問です。賃貸物件を退去する際の掃除についてご紹介しましょう。

1-1.退去時の掃除にかんする定義

賃貸物件には、原状回復のガイドラインが定められています。しかしながら、賃貸物件の貸し主と借り主の間で特約として定めがある事項が優先され、ガイドラインは無視されてしまうケースもあるのです。
退去時の掃除は、新築時に戻すことを意味しているわけではなく、経年劣化を考慮した状態で退去することを指しています。ですから、借り主が過剰な義務を背負う必要はありません。

1-2.退去時の掃除はなぜ必要か?

退去時に掃除をすることは、決して無駄ではありません。貸し主もやはり1人の人間ですから、きれいに使ってくれたという印象を受ければ敷金返還も多くなります。敷金が戻ってこないというトラブルが非常に多く、トラブル回避の秘策として、退去時に簡単な掃除をしておくことが必要です。

1-3.貸し主の義務?借り主の義務?

キズや汚れをどこまで借り主が修繕する義務があるのか、トラブルになるのはこの問題です。通常は、自然磨耗や経年劣化によるものは貸し主負担、故意によるキズや過度の汚れは借り主負担となります。
普通に生活していれば起こり得ないことに対し、借り主の修繕義務が発生するのです。

1-4.敷金について

敷金は預託金といい、入居時に貸し主へ預け入れるお金です。本来、敷金は退去に伴い、全額返還されるものであり、故意による修繕義務が生じた場合は敷金から精算されます。
入居中に家賃滞納があった場合、敷金から差し引いておくために預けるという意味合いも持っているのです。

2.原状回復とは?

原状回復という言葉は、賃貸物件に入居している方なら耳にしたことはあると思います。しかし、原状回復についてしっかり理解されておらず、借り主が負担すべきだと思い込んでいるのではないでしょうか?知識を持たずにいて、損をしてはいけません。原状回復について解説していきます。

2-1.賃貸物件における原状回復とは?

入居したときの状態にして貸し主へ戻すことを、原状回復と呼んでいます。家財道具を撤去し、借り主の不注意によるキズや汚損がある箇所を修繕し、元の状態にしてから明け渡すことです。
線引きが難しいのは、通常の生活で起こったものか、不注意によるものか、経年劣化によるものかの判断でしょう。貸し主・借り主・管理会社の間で線引きがいい加減な場合、トラブルに発展することも多いのです。

2-2.借り主の原状回復義務とは?

貸し主と借り主で、原状回復に対する考え方が異なり、不快な思いをすることがあるでしょう。退去後も尾を引くのが、原状回復についてです。
あくまでも借り主は、故意や管理注意義務を怠った場合に限り、原状回復の義務が生じます。善管注意義務違反といわれるもので、借り主が責任を持って修繕する必要が出てくるのです。

2-2-1.原状回復発生のメカニズムを知っておこう

借り主が負うべき責任は、通常の使用を超えた汚損や破損に対するものです。下記を参照してみてください。

  • 不十分な管理によって発生した汚れやカビ
  • 家具を移動した際にできたキズ
  • ペットの臭いやキズ
  • 釘(くぎ)とネジを打ちつけた穴
  • 喫煙によるヤニの付着

国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」をご一読ください。借り主負担と貸し主負担の区分を示すものさしのようなものです。(http://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk3_000020.html

2-2-2.敷金と原状回復の関連

原状回復義務が生じた場合、敷金から差し引いて戻る仕組みになっています。原状回復の度合いについて、はっきりしないまま賃貸契約を締結しているケースが多く、退去時にトラブルとなって不愉快な思いをしてしまうのです。

2-2-3.敷金の返還はいつ?

原状回復が終わり、退去から1か月、遅くても45日で返還されます。貸し主と借り主の間で、原状回復トラブルや返還されるべき敷金の金額に納得できない場合、紛争が起こるでしょう。紛争が長引くと返還時期も遅れます。

2-2-4.どこまで借り主の義務となる?

退去にあたり、きれいに掃除することはモラルの問題です。借りていたのだから、できる範囲だけでも掃除しておこうと思うのは、最低限のマナーでしょう。
問題となるのは、ハウスクリーニングについてです。賃貸物件の契約時に、ハウスクリーニングを借り主が負担して退去する旨が記載されているなら、特約事項が優先されてしまう傾向にあります。ただし、ハウスクリーニングについて記載されていたとしても、明らかに通常の範囲を超えたハウスクリーニングは借り主が負担する義務はありません。
鍵の紛失など、借り主に落ち度がある場合は、鍵交換費用を負担する義務があります。

2-2-5.貸し主が負担すべき義務とは?

借り主の負担すべき義務についてご説明しました。では、貸し主が負うべき負担とはどのようなものでしょうか?
経年劣化による物件の価値が減少したものは、貸し主が修繕する義務があります。自然磨耗によるものも、貸し主の負担です。自然磨耗にあたるのは、畳の表替えやクロスの日焼けなどが挙げられます。家電製品を置いていたことで、床に黒ずみができた場合も借り主ではなく、貸し主の負担です。通常の生活範囲で発生したものとみなされます。
次の入居者を確保するために原状回復を行うものは、貸し主の責任で行う必要があるのです。

3.退去トラブルについて

退去トラブルは増加しています。敷金が返還されない、原状回復にあたって過度の請求がなされたなど、貸し主と借り主でもめる事態に発展してしまうのです。

3-1.退去時のトラブルで多いのは?

戻るべきお金が戻らないのは、大変憤りを感じますよね。賃貸契約時にきちんと約束事を決めておらず、トラブルになってしまうのです。借り主は過剰請求に応じる必要はなく、敷金返還請求を貸し主へ行うべきでしょう。裁判になる事例は少なく、当事者間できちんと話し合って解決するのが、最も早い方法です。

3-2.トラブルになりやすい事例とは?

借り主は、通常の生活で起こり得ないものに対し、損失を補う義務があります。たとえば、タバコのヤニ・ペットの飼育で起こったキズや臭い・子どもの落書きなどは、貸し主の落ち度として修繕するのが義務です。
注意して生活しているなら発生しない汚損や破損は、借り主の善管注意義務違反であり、敷金返還を主張しても通りません。

3-3.敷金や原状回復にまつわる相談窓口

最初に相談すべき窓口は、賃貸契約を結んだときの不動産屋もしくは管理会社です。第三者という立場で仲介してもらうのが、解決への第一歩でしょう。
貸し主・借り主・不動産屋のいずれも主張が異なり、紛争に発展しそうな場合は、国民生活センターや宅建協会が窓口になってくれます。今までの事例と比較し、適切なアドバイスを受けられるので、なかなか解決しないなら利用しましょう。

4.プロに頼んだ方がいい掃除について

退去にまつわるトラブルでは、特殊な事例もあります。孤独死は社会問題となり、増加の一途(いっと)を辿(たど)っているのをご存じですか? 孤独死や自殺などがあった場合、遺族がなすべき義務は通常とは異なります。

4-1.プロが介入した方がいいケース

借り主の死後、時間が経過している場合は、特殊清掃が必要になります。遺体を運び出して、簡単な掃除をするだけでは不十分で、後々訴えられてしまうこともあるのです。
死臭除去や体液の掃除を行い、孤独死の痕跡を取り除く作業が求められます。素人ではとても難しく、プロの力で特殊清掃を行ってもらうようにしてください。

4-2.孤独死のハウスクリーニングはどんなもの?

いわゆる特殊清掃というものは、通常の清掃とはまったく異なるものです。死臭や体液の除去は、特殊な消臭剤を用い、シミなども残らないように徹底的に掃除していきます。
体液や血液は溶け出し、床下の基礎まで達していることがほとんどで、基盤を丁寧に掃除していく作業を行うのです。わずかでも残っているなら、死臭が再び発生する原因となります。ウジやハエも発生するでしょう。
孤独死のあった現場は事故物件として扱われますから、次の入居者確保が難しくなります。そのため、なるべく死の痕跡がないよう特殊清掃をするのです。

4-3.特殊清掃を扱う業者選びのポイント

特殊清掃が、ハウスクリーニングとは違うことをご理解いただけたと思います。業者はどこでも大丈夫というわけではありません。特殊清掃士の有資格者がいる業者を選んでください。孤独死のあった場合、速やかな明け渡しを求められますから、特殊清掃士が丁寧かつ迅速に掃除してくれるのが理想です。
明け渡しと特殊清掃を行う場合、遺品の撤去も必要になります。遺品はごみではなく、故人の思いが遺(のこ)されている品々です。遺品整理士という遺品のプロにお願いし、価値ある品や思い入れのある品を分別してもらいましょう。
特殊清掃士のいる業者では、リフォーム会社と連携している場合があります。死臭の染みついた床やクロスの張り替えも同時にできますから、選ぶポイントにしてみてください。

4-4.特殊清掃の費用はいくら?

特殊清掃の費用相場をご紹介します。ご紹介するのは、1部屋での金額です。

  • 体液や血液などの汚物処理 2万円~
  • ウジやハエなど害虫駆除 1万5000円~
  • 特殊消臭 3万円~
  • 浴室の清掃 5万円~

上記に加え、人件費や床材・クロス交換費用が発生します。状況に応じ、費用は変動しますから、見積もりをきちんと取って比較し、作業内容を確認してから依頼しましょう。
遺品整理を依頼する場合は、別途費用負担が出てきます。費用の目安は下記を参考にしてください。

  • 1DK 4万~10万
  • 2LDK 11万~25万円
  • 4LDK 18万~35万円

5.賃貸物件の掃除や原状回復でよくある質問

納得できない方が多い原状回復問題。疑問や掃除にまつわる質問をまとめました。退去時の参考にしてください。

5-1.原状回復問題に巻き込まれない対策は?

入居したときに写真を撮っておきましょう。日付がわかるようにするのがポイントです。退去時と比べ、借り主に過失がないことを確認するのが、原状回復問題を深刻化しないための対策となります。

5-2.敷金の返還はいつまで請求できる?

退去してしまったから、もう敷金返還請求ができないのでは、ときっと諦めている人も多いでしょう。敷金返還請求の期限は、5年とされています。時間が経過したものは、敷金返還にかんする専門家へ相談して解決してみるのも1つの方法です。

5-3.画鋲(がびょう)の穴は過失に入る?

画鋲(がびょう)の穴は小さいため、貸し主の負担となります。ポスターを貼っていたことによる日焼けも同様です。ただし、釘(くぎ)やネジといった大きな穴は借り主が修繕すると、ガイドラインにも記載されています。

5-4.浴室やトイレのカビは取り除いた方がいい?

カビの発生は、借り主の善管注意義務違反です。市販のカビ取り剤を使い、できる限り掃除しておきましょう。カビ取り剤を噴霧した後、時間を置いてから流すときれいになります。

5-5.退去時の掃除は何を目安にすればいい?

退去に際して掃除を行う場合、どこまできれいにしたら合格なのかわからないですよね。目安は、住んでいて不快ではない程度で問題ありません。きれいな方が確かに印象もいいとは思います。しかし、無理にピカピカにする必要はないでしょう。

6.まとめ

いかがでしたか? 原状回復や敷金返還にまつわるトラブルは、賃貸物件に住んでいる人にとって他人(たにん)事ではありません。とはいえ、退去の際は新築時のレベルまで修繕する必要はなく、経年劣化や通常使用範囲内の汚れであるなら、貸し主負担で修繕をすることがガイドラインでも定められています。過剰な修繕費用を取られ、損をしないためにも借り主は知識を持ち、退去時にきちんと主張できるようにしておきましょう。トラブルになってしまった場合は、国民生活センターなどに相談するとアドバイスしてもらえます。退去トラブルで不愉快な思いをしないよう、この記事を参考にしてみてください。